パッシブデザインを学ぶ

「心地良く住まう」には、エネルギーの多消費という問題が生じることがわかりました。

この建築のエネルギー問題を考えるにあたり、先人の知恵を紹介したいと思います。それが、パッシブデザインです。

パッシブとは?

パッシブデザインのパッシブとは、「受動性の、受身な、消極的な」という意味です。
パッシブの反対語としては、アクティブになります。「自分から進んで働きかける。活動的。積極的。能動的。」を意味しています。
パッシブデザインとは、すなわち「受身なデザイン」という意味になります。

パッシブデザインの意味

 パッシブデザインすなわち「受け身なデザイン」とはどういうことなのでしょうか?
 これは、建物の温熱環境の整え方をイメージしていると理解できます。
 建物の温熱環境を整えるには、通常、ストーブやエアコンのように、温度を上げる(あるいは下げる)設備を動かします。
建物の利用者が、自ら進んで設備を動かすことは、「アクティブ」と捉えられます。
一方、建物が日射などの太陽エネルギーを始めとした自然から発生したエネルギーを得ることは、ストーブやエアコンなどの設備を稼働することに比較して「受動的・受身」と捉えています。
すなわち、パッシブデザインとは、機械的な手法によらず、建築的に自然エネルギーをコントロールすることで、建物の温熱環境を整えようとする手法なのです。
パッシブデザインのなかで、特に太陽エネルギーの利用に限定したときは、パッシブソーラーと呼んでいます。

《そよ風》はこのパッシブデザインの考え方をベースにしているソーラーシステムです。
そこで、《そよ風》を理解するにはまず、パッシブデザインについて学び、そこからさらに一歩進んだシステムという形で《そよ風》を理解していただくのが良いと思います。
 
 

パッシブデザインの8要素

パッシブデザインは、建築的な手法なので、いくつかの要素に分けられます。
ここでは代表的なものとして、集熱・熱移動・蓄熱・通風・採涼・排熱・日射遮蔽・断熱気密を挙げています。

 

集熱


集熱は、太陽熱など自然エネルギーを取り込み、室内環境に活かす入口の役割を果たす要素です。
例えば南面に面した窓がその集熱の役割を担っています。しかしながらパッシブデザインとして考えるときに、単純な窓では、機能としては十分とは言えず、例えば冬の日中に集熱しつつ、夜間には放熱を止める、夏場には、逆に熱の侵入を防ぐなど、季節や時間帯に応じて、熱の出入りを自由にコントロールする仕組みが必要です。

 

熱移動


熱移動は、室内空間に熱を分配する要素です。輻射・対流・伝導などの現象によって熱は移動します。
基本的に暖気は上へ、冷気は下へと移動します。

 

蓄熱


蓄熱とは、集熱した熱を蓄える要素です。蓄熱することで日中の過熱を防ぎ、夜間には放熱されることによって、時間を問わず均一な室内温度を保つことができます。集熱と蓄熱の部位は基本的に同一です。

 

排熱


排熱は、夏の時期に室内の熱を持った空気を外に排出する要素です。
熱を持った空気は体積が膨張して軽くなるため、上昇する性質があります。
その性質を利用して外に空気を放出することで、家の中の温度を下げることができます。

 

日射遮蔽


集熱とは反対に日射を遮ることで、室内の温度上昇を防ぐのが日射遮蔽です。
南側の深い庇は、太陽高度が高い夏の時期の日射を遮る一方、太陽高度の低い冬は日射が室内に到達できます。
その他、伝統的なすだれや、落葉樹による植栽、アサガオやヘチマのように、ツルが伸びて何かに巻き付いて伸びる種類の植物(ツル性植物)で作る緑のカーテンなども、日射遮蔽の手法の一つです。

通風


人体の周りにある空気は体温によって熱を帯びていきます。
無風状態でじっと動かないでいるときには、熱を帯びた空気は、少しづつ上へ上へと移動し、やがて発散されていきます。
人体で熱を帯びた空気を逃さない役割を果たすのが衣服であり、冬に重ね着やマフラーなどが暖かく感じるのは空気を逃さないためのものです。
逆に、夏の時期には、半袖やノースリーブ、短パンなど肌の露出が大きい衣服が好まれるのも、逆に熱を帯びた空気を体から放散させやすくなるためです。
このように暖かさを感じるためには、体の周りから空気を逃さないことが必要です。
逆に言えば、涼しさを感じるためには、エアコンなどで直接空気温度を下げる方法もありますが、単純に体の周りにある空気を積極的に入れ替えることだけでも有効です。
空気の温度が変わらないにも関わらず、扇風機など風があると涼しさを感じることができます。
扇風機は電力を利用して空気の流れをつくりますが、自然の力で風が通るように、窓を家の対角に配置し、通風を図ることで、涼感が得られて夏場の冷房負荷を減らすことができます。

採涼


夏の日中、締め切っていると、室内の空気は熱気がこもり外気よりも温度が高くなります。
これは、密閉空間を構成している壁面が熱を帯びているためです。
何もしていないと、その熱は夜まで保ちつづけ、なかなか冷えません。
外気を導入することで冷やされますが、なかでも日陰の涼しい場所から空気を取り入れると、室内の温度を下げることができます。

断熱気密


断熱気密について施工方法の研究が進んでおり、また建物の性能評価においても、UA値計算が基準として定められ、その普及によっても、浸透してきました。
ここで詳細を述べることはしませんが、パッシブデザインによる熱収支をコントロールするのにも当然重要な要素です。

快適な室内気候をつくるには


パッシブデザインの日本における第一人者、小玉祐一郎氏は、「過酷な周辺の環境を緩和して快適な室内気候をつくろうとする際には、まず建築的手法を試み、不十分であれば、機械的な手法で補うのが原則であり、建築的手法は地域の気候特性に応じて多様にある」ということを述べています。 パッシブデザインの各要素を、建物のデザインにどう取り入れていくのかを設計者なりに考えていくことがパッシブデザインになるのです。

次の章では、良いことづくめに思える「パッシブデザイン」の抱える問題点について、解説します。

前の記事  whatssoyokaze_10 《そよ風》とパッシブデザイン 次の記事  whatssoyokaze_10 パッシブデザインの問題点